Masumi Dialogue
vol.21

「課題解決」にとどまらない、
山との新しいつながりをデザインする

これからの時代に求められる「豊かさ」とは何なのか。さまざまな分野の方との対話を通じて、答えを探っています。今回は長野県茅野市でyasoブランドをプロデュースする石橋鉄志さんを訪ねて、お話を聞きしました。手付かずだったり、持て余していた資源を、思わぬかたちで素敵なプロダクトに変えて差し出してくれるyaso。
石橋さんは、どんな思いで、森の素材を生かした商品を生み出しているのでしょうか。

石橋鉄志

1981年福岡県生まれ。主に東京と長野を行き来しながら、国内外さまざまなプロジェクトのコンセプトデザインやディレクションを手がける。2021年9月に株式会社ヤソ設立。長野県茅野市に本社を構え、地域の林業事業と連携し、商品を企画・製造・販売。「日本の森の香り」を暮らしに届けるフォレストフレグランスメーカーとして、精油や茶などが人気を呼んでいる。東急リゾートタウン蓼科内では地元産の食材を取り扱う「EMMA’s FOOD&GROCERY」を運営。2026年には、台湾への出店も果たした。

仕事の基盤にはエコデザイン
長期的な視座で成果を考える

石橋さんは、地域の課題解決につながる活動をされていて、いつも刺激を受けています。長野県の、しかも近いエリアでこういう動きがあるのが嬉しいです。まず、あらためて聞いてみたいのが、そもそも石橋さんが、yasoのような取り組みを担う志を、どこで育んできたのかについてです。

石橋鉄志さん(以下、石橋): 僕は美大出身なのですが、大学生活を送っている頃、ちょうどエコデザインとかサステナブルデザインという言葉が出てきました。「デザインの領域でも、社会課題について考えるべきだ」と。僕自身も、それまではかっこいいものをつくって有名になってやろうみたいな感覚で美大に通っていたんですが、がらりと意識が変わって、エコデザインの最先端を学びたくなったんです。それで、行き着いたのがオランダのデザインアカデミーの大学院でした。

どんな学校なんですか。

石橋: 社会課題に対して、どんな解決策をデザインしていくか研究するんですが、めちゃくちゃ楽しかったですね。ただ、言語の壁は大きくて。言葉に頼らずになんとか絵や物で、コミュニケーションをとっていたので、人にいかに伝えるかを鍛えられたと思います。オランダの学校とはいえ、クラスメイトはほぼ海外からの留学生。さまざまなバックグラウンドを持つ人たちがひとつの教室に集まって、デザインをテーマに議論する体験は、とても貴重でした。

帰国後は、どうしたのですか。

石橋: 実は、就職活動は、一度もしたことがないんですよ。知人のつてを頼って、店舗設計の仕事をいくつかいただいて、福岡県の田川郡という場所を拠点にフリーランスとして働いていました。周りにデザイナーはいないし、そもそものコンセプトや事業の構造など、自分が提案できるところは全部やっていこうと決めて、グラフィック、Web……とにかくデザイン周りでできることは何でもやっていました。  3年くらい経って、東京に出てきて、次第に仕事の規模も大きくなりましたが、それでもずっと個人でやっていて。そのときどきでいろいろな人と組んで、僕がプロジェクトマネジメントをする体制をとってきました。

オランダで学んできたことは、石橋さんの日本での仕事に役立ちましたか。

石橋: うーん、どうなんでしょう。かなり概念的なものを学んできたので、直接的には影響はなかったかもしれないです。ただ、仕事ってどうしても近視眼的になりがちですが、俯瞰してプロジェクトを見ていく感覚を培ってきたと思うんです。たとえば、「まちづくりをしましょう」となったときに、短期的なにぎわいをつくるより、長期的な文化やルールをつくるのが重要だという感覚を持って考えられる。そういう姿勢をデベロッパーさんたちが面白がってくれて、仕事につながってきた部分は、あるかもしれません。

茅野で向き合うことになった
林業が抱える課題

茅野との関わりのきっかけは何だったのでしょうか。

石橋: 茅野にいる小池耕太郎(木葉社)との縁がきっかけです。彼とは、僕が大学生のときに同居人だったことがあるんですよ。その彼がUターンして林業を仕事にしていて、毎年茅野に遊びに行っていました。彼の地元の仲間と東京からやって来る僕らとで、多いときは50〜60人もの人でキャンプをすることもありました。  そうやって遊んでいるうちに、林業の現場に行って、担い手が少ない、お金にならないといった悩みもたくさん聞きました。いろんな課題を知っていくと、もしかしたら自分なりにアプローチできることがあるんじゃないかと思い始めて、チャレンジし始めたのが2020年くらいのことです。  初めてつくった山の素材を標本のようにしたプロダクトが、思いの外評判が良かったんです。それで、片手間でやるのは難しそうだと思うようになりました。

「yaso」というブランド名、のちに会社名ヤソにもなるこの名前には、どういう意味を込めたのでしょうか。

石橋: 最初は野に草と書いて「野草」みたいなブランドができないかと考えました。ただ、もうちょっと大きなテーマでいきたいなと思ったときに、八十の漢字を当てることを思いつきました。八百万の神というように、山の中には無限に魅力的なものがあると伝えたいなと思って。  ただ、始動から一年くらいは気が向いたらちょっと動かしてまた休んで、という感じ。それではもったいないと思い始めて、会社組織にして人を雇うことにしたんです。立ち上がりはそんな感じで、最初から大きなビジョンがあったというよりは、ふわっと始まったプロジェクトだったんです。

課題解決の前に商品の魅力
両立するものを生み出すデザイン

どのようにyasoのプロダクトは生み出されたのでしょうか。

石橋: 僕にとっての山は、最初は緑の大きな塊みたいなものだったんです。だけど、落ち葉とか木の実を拾って解像度が上がっていく。それが自分にとって新鮮な体験だったんです。その感覚そのものを商品にできないかを考えました。そういった感覚を呼び覚ますプロダクトをつくれれば、山自体を身近なものに感じて、興味を持ってもらえる。その結果、林業が抱えている問題を解決するきっかけが見つかるんじゃないかと考えたんです。

今は、赤松やヒノキなどを蒸留した精油が主力商品になっていますね。

石橋: これまで林業では捨てられていた葉や枝を蒸留すれば、木自体の価値を上げられるからです。たとえば木一本が一万円にしかならない現状を、五十万円に変えられれば希望があります。試行錯誤してきて、木の葉を精油に変えるなら、それができるとわかってきました。現在商品化しているお茶、精油、お香などは日常的に消費するもの。山の材料は大量にあるので、大量に消費していかなきゃいけない。さらに、商品を使うことで木自体の価値を上げようと考えると、蒸留するのが一番効率がいいです。精油は、さまざまなフレグランスの商品として展開することもできるので、めちゃくちゃ可能性があると思っています。 精油や関連商品をリリースしてすぐの頃は、取り組み自体に共感を持って連絡をくれる方が多かったんです。だけど、最近は商品本来の魅力がきちんと伝わりだした感触もあって、香りの良さへの反響が増えてきて嬉しい。精油単体で売るだけだとニッチな市場ですが、身近で使えるハンドソープなどの商品にすることで、多くの人に興味を持って使ってもらえるようになる。商品展開についてはものすごく考えています。 山には、ものすごい多面的価値があって、人間にとってもメリットがある場所です。それをどうやって持続するかは、僕らみたいな人たちが、既存の枠にとらわれないで考える必要があるはず。ボランティアではできないし、事業として持続的に取り組める方法を考えながらやっていく。この地域のため、この山のため、みたいな思いが先立つよりは、商品の魅力を突き詰めていきたいですね。

選択肢を自らつくること、
選べる自由がある豊かさ

近いうちに長野に引っ越して来る予定と聞きました。

石橋: 突然僕が家を買ってしまったので、家族は驚いているとは思います(笑)。これまでも、子どもも丸一ヶ月茅野で過ごしたりしていますし、抵抗はないみたいです。 僕は東京も好きだし、面白い場所だと思っています。でも、いろんな仕組みができあがっているから、あまり自分にできることがないように感じる側面もあります。逆にここでは、自分が始めることで、人とどんどんつながって、社会との接点もすごく実感できる。自分がいることで何か少しでも街が変わっていくんじゃないかと思えるんです。 責任も感じますけど、すごく心地いいことです。それに、やっぱり自然が身近にあるから心にもすごくいい。そのバランスが、すごく今大事ですね。

それが、石橋さんにとっての豊かさなのかもしれませんね。

石橋: そうですね。今までとは逆に、今度は僕だけが東京で小さな家を借りて、毎週通うことにはなるんですけど……。東京の会社のメンバーもヤソ全体のブランディングとかプロデュースに継続して関わっているので、東京か長野かによらずに、一つのチームになっている感覚があります。それぞれ行ったり来たりがあることで、仕事のバリエーションも広がってくるので、すごくいい循環ができていると思います。 僕が意識しているのは、選択肢がいっぱいあること。住む場所もそうだし、仕事の内容もそうです。僕自身、デザインをしながら宿泊施設の経営もするし、飲食店もつくるし、自分の仕事に制限をつくりたくない。一つのことを、突き詰めることにもめちゃくちゃ憧れがあるけれど、僕自身はそういう生き方はできない。それなら、デザイナー的視点でもっと幅広く選択肢をつくっていきたい。毎日いろんなところに行っていたいし、いろんな人と会いたいんです。そういう選択肢が常にあるのが、自分の一番の理想かな。最近は増やしすぎて大変なことになっているんですが(笑)。それでも、たくさんの可能性が目の前にある日々は、やっぱり楽しいですね。

聞き手:宮坂勝彦(宮坂醸造)
文:小野民

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